難易度
電圧・電流に高調波を含む交流回路の電力の計算です。
①電圧・電流に位相差がある場合の電力計算
②電圧・電流の周波数が異なる場合の扱い
この2点について知っておかないと回答が不可能なため、非常に難問です。
上記①②について理解するための前提知識として、三角関数と積分の取り扱いについてしっかり把握してないと理解できないことでしょう。
問題
次式に示す電圧\(e[V]\)及び電流\(i[A]\)による電力の値\([kW]\)として、最も近いものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
\(\displaystyle e=100sinωt+50sin \left( 3ωt- \frac{π}{6} \right) [V] \)
\(\displaystyle i=20sin \left(ωt-\frac{π}{6} \right) + 10\sqrt{3}sin \left( 3ωt+ \frac{π}{6} \right) [A] \)
(1)0.95 (2)1.08 (3)1.16 (4)1.29 (5)1.34
答え
(2)
要点整理
交流回路の電力(平均電力)の概要
交流回路の一周期\(T\)の間の平均電力\(P_{av}\)
・基本周波数\(ωt\)の電圧の瞬時値\(v_1(t)=\sqrt{2}Vsin(ωt+α)\)
・基本周波数\(ωt\)の電流の瞬時値\(i_1(t)=\sqrt{2}Isin(ωt+β)\)
・n次高調波\(nωt\)の電圧の瞬時値\(v_n(t)=\sqrt{2}Vsin(3ωt+α)\)
・n次高調波\(nωt\)の電流の瞬時値\(i_n(t)=\sqrt{2}Isin(3ωt+β)\)
とします。このとき、\(V\)は電圧の実効値、\(I\)は電流の実行値、\(α\)と\(β\)は位相差です。
この時の平均電力を
・\(P_{av11}\)を、基本周波数\(ωt\)の電圧と基本周波数\(ωt\)の電流の一周期の平均電力
・\(P_{avnn}\)を、n次高調波\(nωt\)の電圧とn次高調波\(nωt\)の電流の一周期の平均電力
・\(P_{av1n}\)を、基本周波数\(ωt\)の電圧とn次高調波\(nωt\)の電流の一周期の平均電力
・\(P_{avn1}\)を、n次高調波\(nωt\)の電圧と基本周波数\(ωt\)の電流の一周期の平均電力
とします。この時、
①同じ周波数の電圧と電流の一周期の平均電力は、
\(P_{av11}=P_{avnn}=VIcos(α-β)\)
となります。
②異なる周波数の電圧と電流の一周期の平均電力は、
\(P_{av1n}=P_{avn1}=0\)
となります。
同じ周波数の電圧・電流の平均電力の計算
周波数\(ωt\)の電圧の瞬時値\(v(t)\)と、周波数\(ωt\)の電流の瞬時値\(i(t)\)は下記の通りとします。
また、電圧の実効値を\(V[V]\)、電流の実効値を\(I[A]\)とします。
\(\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{1}
v(t) = \sqrt{2}Vsin(ωt+α) \\
i(t) = \sqrt{2}Isin(ωt+β)
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}\)
このとき、電力の瞬時値\(p(t)\)は、
\(p(t)=v(t)・i(t)=\sqrt{2}Vsin(ωt+α)・\sqrt{2}Isin(ωt+β)\)
⇔\(p(t)=2VI sin(ωt+α)sin(ωt+β)\) ………①
三角関数の加法定理
\(\displaystyle sinAsinB=\frac{cos(A-B)-cos(A+B)}{2}\) ………②
より、
①式に②式を適用すると、
\(p(t)=VI\Big(cos\big((ωt+α)-(ωt+β)\big)-cos\big((ωt+α)+(ωt+β)\big)\Big)\)
⇔\(p(t)=VI\Big(cos(α-β)-cos(2ωt+α+β)\Big)\) ………③
となり、電力の瞬時値が求まります。
次に、一周期の平均電力を求めます。
\(\displaystyle \begin{eqnarray}
P_{av11}&=&\frac{1}{T}\int_{0}^{T} p(t)dt \\
&=&\frac{1}{T}\int_{0}^{T} VI(cos(α-β)-cos(2ωt+α+β))dt \\
&=&\frac{VI}{T}\int_{0}^{T} cos(α-β)dt – \frac{VI}{T}\int_{0}^{T} cos(2ωt+α+β)dt \\
&=&\frac{VI}{T}cos(α-β) \left[ t \right]_0^T – \frac{VI}{T} \left[ \frac{sin(2ωt+α+β)}{2ω} \right]_0^T \\
&=&VIcos(α-β)-\frac{VI}{2ωT}\Big( sin(2ωT+α+β)-sin(0+α+β) \Big) …④
\end{eqnarray}\)
角周波数\(ω\)と周波数\(f\)の関係は、\(ω=2πf\)であり、
周期\(T\)と周波数\(f\)の関係から、
\(\displaystyle T=\frac{1}{f}=\frac{2π}{ω}\) ………⑤
④式に⑤式を代入すると、
\(\displaystyle P_{av11}=VIcos(α-β)-\frac{VI}{4π}\Big( sin(4π+α+β)-sin(0+α+β)\Big) \) ………⑥
\(sin(4π+α+β)=sin(α+β)\) ………⑦
なので、⑥式に⑦式を代入すると、
\(\displaystyle P_{av11}=VIcos(α-β)\) ………⑧
上記の計算は、電圧の瞬時値\(v(t)\)、電流の瞬時値\(i(t)\)がn次高調波でも成り立つので、
\(P_{av11}=P_{avnn}=VIcos(α-β)\) が成り立ちます。
異なる周波数の電圧・電流の平均電力の計算
周波数\(3ωt\)の電圧の3次高調波の瞬時値\(v_3(t)\)と、周波数\(ωt\)の電流の基本波の瞬時値\(i_1(t)\)は下記の通りとします。
また、電圧の実効値を\(V[V]\)、電流の実効値を\(I[A]\)とします。
\(\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{1}
v_3(t) = \sqrt{2}Vsin(3ωt+α) \\
i_1(t) = \sqrt{2}Isin(ωt+β)
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}\)
このとき、電力の瞬時値\(p(t)\)は、
\(p(t)=v_3(t)・i_1(t)=\sqrt{2}Vsin(3ωt+α)・\sqrt{2}Isin(ωt+β)\)
⇔\(p(t)=2VI sin(3ωt+α)sin(ωt+β)\) ………①
三角関数の加法定理
\(\displaystyle sinAsinB=\frac{cos(A-B)-cos(A+B)}{2}\) ………②
より、
①式に②式を適用すると、
\(p(t)=VI\Big(cos\big((3ωt+α)-(ωt+β)\big)-cos\big((3ωt+α)+(ωt+β)\big)\Big)\)
⇔\(p(t)=VI\Big(cos(2ωt+α-β)-cos(4ωt+α+β)\Big)\) ………③
となり、電力の瞬時値が求まります。
次に、一周期の平均電力を求めます。
\(\displaystyle \begin{eqnarray}
P_{av31}&=&\frac{1}{T}\int_{0}^{T} p(t)dt \\
&=&\frac{1}{T}\int_{0}^{T} VI(cos(2ωt+α-β)-cos(4ωt+α+β))dt \\
&=&\frac{VI}{T}\int_{0}^{T} cos(2ωt+α-β)dt – \frac{VI}{T}\int_{0}^{T} cos(4ωt+α+β)dt \\
&=&\frac{VI}{T} \left[ \frac{sin(2ωt+α-β)}{2ω} \right]_0^T – \frac{VI}{T} \left[ \frac{sin(4ωt+α+β)}{4ω} \right]_0^T \\
&=&\frac{VI}{2ωT}\Big( sin(2ωT+α-β)-sin(0+α-β) \Big) \\
&& -\frac{VI}{4ωT}\Big( sin(4ωT+α+β)-sin(0+α+β) \Big) …④
\end{eqnarray}\)
角周波数\(ω\)と周波数\(f\)の関係は、\(ω=2πf\)であり、
周期\(T\)と周波数\(f\)の関係から、
\(\displaystyle T=\frac{1}{f}=\frac{2π}{ω}\) ………⑤
④式に⑤式を代入すると、
\(\displaystyle \begin{eqnarray}
P_{av31}&=&\frac{VI}{4π}\Big( sin(4π+α-β)-sin(0+α-β)\Big) \\
&& -\frac{VI}{8π}\Big( sin(8π+α+β)-sin(0+α+β)\Big) …⑥
\end{eqnarray}\)
\(sin(4π+α-β)=sin(α-β)\) ………⑦
\(sin(8π+α+β)=sin(α+β)\) ………⑧
なので、⑥式に⑦・⑧式を代入すると、
\(\displaystyle P_{av31}=0\) ………⑨
したがって、異なる周波数を持つ電圧の瞬時値\(v(t)\)と、電流の瞬時値\(i(t)\)の平均電力\(P_{av}\)は、\(0\)となります。
上記の計算は、電圧の瞬時値\(v(t)\)、電流の瞬時値\(i(t)\)の周波数が逆でも成り立ちます。
また、上記では基本波と3次高調波で計算しましたが、電圧の瞬時値\(v(t)\)、電流の瞬時値\(i(t)\)が他の周波数、
\(\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{1}
v_n(t) = \sqrt{2}Vsin(nωt+α) \\
i_m(t) = \sqrt{2}Isin(mωt+β) (n≠m)
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}\)
としても成り立ちます。
要点整理の適用
\(\displaystyle e=100sinωt+50sin \left( 3ωt- \frac{π}{6} \right) [V] \)
\(\displaystyle i=20sin \left(ωt-\frac{π}{6} \right) + 10\sqrt{3}sin \left( 3ωt+ \frac{π}{6} \right) [A] \)
問題の基本波\(ωt\)と、3次高調波\(3ωt\)の積からなる平均電力は、\(0[W]\)となりますので、瞬時電力\(p\)の式は下記のように簡略化できます。
\(\displaystyle \begin{eqnarray}
p&=&ei \\
&=&\frac{100}{\sqrt{2}}sinωt・\frac{20}{\sqrt{2}}sin \left(ωt-\frac{π}{6} \right)+\frac{50}{\sqrt{2}}sin \left( 3ωt- \frac{π}{6} \right)・\frac{10}{\sqrt{2}}\sqrt{3}sin \left( 3ωt+ \frac{π}{6} \right) \\
&=&1000sinωt・sin \left(ωt-\frac{π}{6} \right)+250\sqrt{3}sin \left( 3ωt- \frac{π}{6} \right)・sin \left( 3ωt+ \frac{π}{6} \right)
\end{eqnarray}\)
問題文の\(e\)、\(i\)の係数は瞬時値なので、実効値に直して立式しています。
次に、平均電力を求めると、
\(\displaystyle \begin{eqnarray}
P&=&1000cos \left( 0-(-\frac{π}{6})\right) +250\sqrt{3} cos \left( -\frac{π}{6}- \left( \frac{π}{6} \right) \right) \\
&=&1000cos \left( \frac{π}{6}\right) +250\sqrt{3} cos \left( -\frac{π}{3} \right) \\
&=&1000\frac{\sqrt{3}}{2}+250\frac{\sqrt{3}}{2} \\
&=&1083[W] = 1.08[kW]
\end{eqnarray}\)
以上より、1.08[kW]である(2)が回答となります。
出典元
令和5年度第三種電気主任技術者試験 理論科目A問題下期問9
参考書
イラストがとても多く、視覚的に理解しやすいので、初学者に、お勧めなテキストです。
問題のページよりも、解説のページ数が圧倒的に多い、初学者に向けの問題集です。
問題集は、解説の質がその価値を決めます。解説には分かりやすいイラストが多く、始めて電気に触れる人でも取り組みやすいことでしょう。
本ブログの管理人は、電験3種過去問マスタを使って電験3種を取りました。
この問題集の解説は、要点が端的にまとまっていて分かりやすいのでお勧めです。
ある程度学んで基礎がある人に向いています。
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