概要
バイポーラトランジスタのバイアス方式に関する問題です。
バイポーラトランジスタの動作原理についての知識量が問われるため、少々難しい問題です。
バイアスとは、トランジスタの動作点の基準を作る直流電圧のことです。
固定バイアス方式、自己バイアス方式、電流帰還バイアス方式とあり、それぞれに大きな特徴があります。
キーワード
バイアス、固定バイアス方式、自己バイアス方式、電流帰還バイアス方式
問題
図1、図2 及び図3 は、トランジスタ増幅器のバイアス回路を示す。次の(a)及び(b)の問に答えよ。
ただし、\(V_{CC}\)は電源電圧、\(V_B\)はベース電圧、\(I_B\)はベース電流、\(I_C\)はコレクタ電流、\(I_E\)はエミッタ電流、\(R\)、\(R_B\)、\(R_C\)及び\(R_E\)は抵抗を示す。

(a) 次の①式、②式及び③式は、図1、図2 及び図3 のいずれかの回路のベース・エミッタ間の電圧 \(V_{BE}\) を示す。
\(V_{BE}=V_B-I_E・R_E\) …①
\(V_{BE}=V_{CC}-I_B・R\) …②
\(V_{BE}=V_{CC}-I_B・R-I_E・R_C\) …③
上記の式と図の組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
①式 | ②式 | ③式 | |
---|---|---|---|
(1) | 図1 | 図2 | 図3 |
(2) | 図2 | 図3 | 図1 |
(3) | 図3 | 図1 | 図2 |
(4) | 図1 | 図3 | 図2 |
(5) | 図3 | 図2 | 図1 |
(b) 次の文章a、b及びcは、それぞれのバイアス回路における周囲温度の変化と電流\(I_C\) との関係について述べたものである。
ただし、\(h_{FE}\) は直流電流増幅率を表す。
a 温度上昇により\(h_{FE}\) が増加すると\(I_C\) が増加し,バイアス安定度が悪いバイアス回路の図は \(\fbox{(ア)}\) である。
b \(h_{FE}\) の変化により\(I_C\) が増加しようとすると, \(V_B\) はほぼ一定であるから\(V_{BE}\)が減少するので、 \(I_C\) や\(I_E\) の増加を妨げるように働く。\(I_C\) の変化の割合が比較的低く、バイアス安定度が良いものの、電力損失が大きいバイアス回路の図は \(\fbox{(イ)}\) である。
c \(h_{FE}\) の変化により\(I_C\) が増加しようとすると, \(R_C\) の電圧降下も増加することでコレクタ・エミッタ間の電圧\(V_{CE}\) が低下する。これにより\(R\) の電圧が減少して\(I_B\)が減少するので、\(I_C\) の増加が抑えられるバイアス回路の図は \(\fbox{(ウ)}\)である。
上記の記述中の空白箇所(ア)~(ウ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(ア) | (イ) | (ウ) | |
---|---|---|---|
(1) | 図1 | 図2 | 図3 |
(2) | 図2 | 図3 | 図1 |
(3) | 図3 | 図1 | 図2 |
(4) | 図1 | 図3 | 図2 |
(5) | 図2 | 図1 | 図3 |
答え
(a)(3)
(b)(4)
解説テキスト リンク
回答解説
(a)の解答の流れ
(1)図1の\(V_{BE}\)を求める
(2)図2の\(V_{BE}\)を求める
(3)図3の\(V_B\)を求める
(4)図3の\(V_E\)を求めて\(V_{BE}\)を求める
(1)図1の\(V_{BE}\)を求める

ベース電圧\(V_B\)は、電源電圧\(V_{CC}\)から、抵抗\(R\)を通るベース電流\(I_B\)の電圧降下\(I_BR\)した電圧なので、次式で表せます。
\(V_B=V_{CC}-I_BR\)
エミッタ電圧\(V_E\)は、電源の負端子と直接接続されているので\(V_E=0\)です。そのため、ベース電圧\(V_B\)とベースエミッタ間電圧\(V_{BE}\)は等しくなります。
\(V_{BE}=V_B-V_E=V_B\)
以上より、図1のベース・エミッタ間の電圧 \(V_{BE}\) は、次のように示せます。
\(V_{BE}=V_{CC}-I_BR\) …②
したがって、図1は②式です。
(2)図2の\(V_{BE}\)を求める

ベース電圧\(V_B\)は、電源電圧\(V_{CC}\)から、2つの抵抗分電圧降下した電圧です。
・コレクタ抵抗\(R_C\)には、コレクタ電流\(I_C\)とベース電流\(I_B\)の両方の電流が通りますので、その電圧降下は、
\((I_C+I_B)R_C=I_ER_C\)
・抵抗\(R\)を通るベース電流\(I_B\)の電圧降下\(I_BR\)
したがって、\(V_B\)は次のようになります。
\(V_B=V_{CC}-I_ER_C-I_BR\)
エミッタ電圧は\(V_E=0\)のため、ベース電圧\(V_B\)とベースエミッタ間電圧\(V_{BE}\)は等しくなります。
\(V_{BE}=V_B-V_E=V_B\)
以上より、図2のベース・エミッタ間の電圧 \(V_{BE}\) は、次のように示せます。
\(V_{BE}=V_{CC}-I_ER_C-I_BR\) …③
したがって、図2は③式です。
(3)図3の\(V_{BE}\)を求める

エミッタ電圧\(V_E\)は、エミッタ抵抗\(R_E\)を通るエミッタ電流\(I_E\)による電圧\(I_ER_E\)です。
\(V_E=I_ER_E\)
ベースエミッタ間電圧\(V_{BE}\)は、ベース電圧\(V_B\)とエミッタ電圧\(V_E\)の電位差なので、
\(V_{BE}=V_B-V_E=V_B-I_ER_E\)
したがって、図3は①式です。
以上より、(a)問題の答えは(3)①式は図3、②式は図1、③式は図2 が答えです。
(b)の解答
a 温度上昇により\(h_{FE}\) が増加すると\(I_C\) が増加し、バイアス安定度が悪いバイアス回路の図は \(\fbox{ (ア) }\) である。

結論から書くと、図1が答えです。
図1の回路は、固定バイアスと呼ばれるバイアス方式です。
図1~3のバイアス方式の中で、最もバイアス安定度が悪いです。
図1の回路は、②式(\(V_{BE}=V_{CC}-I_BR\))から、直流バイアス電圧\(V_{BE}\)は一定です。

ベース電流\(I_B\)と、コレクタ電流\(I_C\)の関係式は、
\(I_C=h_{FE}I_B\)
であるため、温度変化によって\(h_{FE}\)が増加すると、コレクタ電流\(I_C\)が増加します。
直流バイアス\(V_{BE}\)によるコレクタ電流\(I_C\)が変化すると、出力電圧のバイアス電圧\(V_{out}\)の式は、\(V_{out}=V_{CC}-I_CR_C\) なので、\(V_{out}\)が変動することにつながります。
出力のバイアス電圧\(V_{out}\)が変動する=バイアス安定度が悪い ということなので、図1の回路が答えであることがわかります。
バイアス安定度が悪いと、出力信号を大きくしようとしたときに歪む原因となります。
b \(h_{FE}\) の変化により\(I_C\) が増加しようとすると、\(V_B\) はほぼ一定であるから\(V_{BE}\)が減少するので、 \(I_C\) や\(I_E\) の増加を妨げるように働く。\(I_C\) の変化の割合が比較的低く、バイアス安定度が良いものの、電力損失が大きいバイアス回路の図は \(\fbox{ (イ) }\) である。

結論から書くと、図3が答えです。
図3の回路は、電流帰還バイアスと呼ばれるバイアス方式です。
電流帰還バイアスは、自己バイアス方式の一種です。
図1~3のバイアス方式の中で、最もバイアス安定度が良いです。
図3の回路の抵抗\(R_E\)は、デジェネレーション抵抗と呼ばれる抵抗です。この抵抗の動作は、次の流れで動作し、トランジスタのバイアス電圧\(V_{BE}\)を調整するため安定します。
①温度変化等により\(h_{FE}\)が増加する。
②コレクタ電流\(I_C\)が増加する。
③エミッタ電流(\(I_E=I_C+I_B\))も増加する。
④デジェネレーション抵抗\(R_E\)の電位差\(V_E=I_ER_E\)が増加する。
⑤エミッタ電圧\(V_E\)増加により、
ベースエミッタ間電圧(\(V_{BE}=V_B-V_E\))が減少する。
⑥\(V_{BE}\)減少すると、ベース電流電流\(I_B\)が減少する。
⑦\(I_B\)が減少すると、コレクタ電流\(I_C\)が減少する。
温度変化等によって\(h_{FE}\)が減少した場合も、逆デジェネレーション抵抗は逆の動作するので、バイアス安定度が良くなります。
また、トランジスタの持つ非線形性を改善し、波形の歪みを小さくするメリットもあります。
その一方で、コレクタ電流\(I_C\)の変化を抑える方向に働くため、利得(ゲイン)が減少する大きな短所もあります。
c \(h_{FE}\) の変化により\(I_C\) が増加しようとすると, \(R_C\) の電圧降下も増加することでコレクタ・エミッタ間の電圧\(V_{CE}\) が低下する。これにより\(R\) の電圧が減少して\(I_B\)が減少するので、\(I_C\) の増加が抑えられるバイアス回路の図は \(\fbox{ (ウ) }\)である。

結論から書くと、図2が答えです。
図3の回路は、自己バイアスと呼ばれるバイアス方式です。
図2の回路は、③式\(V_{BE}=V_{CC}-I_B・R-I_E・R_C\)から、\(h_{FE}\)の変動に強い回路です。この回路は次の流れで動作し、\(V_{BE}\)を調整する機能があるので、\(h_{FE}\)の変動に強い回路です。
①温度変化等により\(h_{FE}\)が増加する。
②コレクタ電流\(I_C\)が増加する。
③\(I_CR_C\)の電圧降下が増加するので、\(V_{CE}\)が減少する。
④\(V_{CE}\)が減少すると\(V_{BE}\)が減少する。
⑤\(V_{BE}\)が減少すると\(I_B\)が減少する。
⑥\(I_B\)が減少すると、コレクタ電流\(I_C\)が減少する。
温度変化等によって\(h_{FE}\)が減少した場合も、回路は逆の動作するので、バイアス安定度が良くなります。
以上より、(b)問題の答えは(4)(ア)図1、(イ)図3、(ウ)図2 が答えです。
出典元
一般財団法人電気技術者試験センター (https://www.shiken.or.jp/index.html)
令和4年度上期 第三種電気主任技術者試験 理論科目B問題問18
参考書
イラストがとても多く、視覚的に理解しやすいので、初学者に、お勧めなテキストです。
問題のページよりも、解説のページ数が圧倒的に多い、初学者に向けの問題集です。
問題集は、解説の質がその価値を決めます。解説には分かりやすいイラストが多く、始めて電気に触れる人でも取り組みやすいことでしょう。
本ブログの管理人は、電験3種過去問マスタを使って電験3種を取りました。
この問題集の解説は、要点が端的にまとまっていて分かりやすいのでお勧めです。
ある程度学んで基礎がある人に向いています。
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