過渡解析の概要
コイル、コンデンサがある回路では、スイッチを入り切りして電源ON/OFFすると電圧・電流の大きさが徐々に変化するようになります。
変化し続けている状態を過渡状態。
変化が終わり、電圧・電流が変化しなくなった状態を定常状態と呼びます。

この過渡状態、定常状態を解析して、変化の様子を示すことを過渡解析と呼びます。
過渡解析の解法
過渡現象の解法は次の(1)~(3)の3つあります。本ページでは(2)について解説します。
(1)微分方程式を解く
(2)初等的解法で解く(過渡解と定常解をそれぞれ解析後、重ねの理を使って足し合わせる)
(3)ラプラス変換
(1)の微分方程式を解く方法は、微分積分計算した後、積分定数を求めていく方法です。
過渡応答の考え方の基礎であるため理解をしておいた方が良いですが、非常に計算が煩雑なため、電験の試験中にこの解法で解くことはお勧めしません。
(2)3つの中で、一番早く、簡単に解ける解法です。
この解法を完全に理解しておけば、電験三種の過渡解析の問題はほぼ確実に点数が取れるようになります。
(3)大規模なシステムの応答や、安定性を求めるときに重要な解法です。
ラプラス変換すると、解析が難解な微分方程式を代数方程式として解けるメリットがあります。
しかし、①ラプラス変換 ⇒ ②代数方程式で回路解析 ⇒ ③逆ラプラス変換 の3つの工程が必要なため回答に時間が掛かるデメリットがあります。
ラプラス変換の公式を覚えなければならないため、電験三種の受験においては学ぶ必要はないです。
大規模なシステム解析をする際には必須であるため、電験二種の二次試験を受験するまでには完全な理解が求められます。
過渡解析(初等的解法)の手順
初等的解法は、重ねの理を使って解析する手法です。
①’は、考え方のベースなので本ページでは説明しますが、実際に解析する際には分離した回路を描きだす必要はありません。
① 回路の微分方程式を立式
①’ 重ねの理から、過渡状態と定常状態の2つの回路に分ける
② 過渡状態を解析して時定数を求める
③ 定常状態を解析して収束値を求める
④ 初期条件から、過渡解の係数を求める
⑤ 過渡解・定常解を合成して解を出す
RL直列回路の過渡解析
初等的解法の実例として、RL直列回路の過渡解析を行います。
回路の微分方程式を立式
t_0=0秒以前はスイッチが開かれていて、t_0=0秒のタイミングでスイッチを投入するような、RL直列回路の過渡解析を例に考えます。

左図の回路は、キルヒホッフの電圧則から
E=V_R+V_L …(1)
です。
回路に流れる電流をi[A]としたとき、抵抗R、コイルLの両端に発生する電圧は次式で表されます。
V_R=Ri …(2)
V_L=L\frac{di}{dt} …(3)
(1)式に(2)・(3)式を代入すると、次のような微分方程式になります。
E=Ri+L\frac{di}{dt} …(4)
重ねの理(過渡状態回路と定常状態回路に分割)
解析する回路に重ねの理を使うことで、過渡状態と定常状態の2つの回路に分けてそれぞれ解析することができます。

過渡状態解析
過渡状態の電流をi_tとします。このi_tは、指数関数状に変化します。
指数関数に、係数kとsを掛けると、次式で表すことができます。
i_t=ke^{-st} …(5)
i_tを微分すると、
\frac{di_t}{dt}=-ske^{-st} …(6)

左図の過渡状態の回路から、過渡回路の方程式は、
0=Ri_t+L\frac{di_t}{dt}
となるので、(5)・(6)式を代入すると
0=Rke^{-st}-Lske^{-st}=(R-Ls)ke^{-st}
この式が成り立つためには、
\displaystyle s=\frac{R}{L} …(7)
したがって、過渡状態の電流は、
\displaystyle i_t=ke^{-\frac{R}{L}t} …(8)
と、なります。現段階では、係数kがわからないので後ほど求めます。
時定数τは、sの逆数なので、
\displaystyle τ=\frac{1}{s}=\frac{L}{R} …(9)
定常状態解析
定常状態の電流をi_sとして定常状態を解析します。

左図は定常状態の回路です。
定常状態では電流は変化しないので
\displaystyle \frac{di_s}{dt}=0
電流変化がないことから、コイルには電圧が発生しません。
v_L=0
したがって、定常回路の方程式は、電源と抵抗からなるオームの法則により次式となります。
E=i_sR
したがって、定常状態の電流は次式となります。
\displaystyle i_s=\frac{E}{R} …(10)
初期条件の解析

過渡解の指数部分の係数sはわかりましたが、係数kはまだわからないので、初期条件と照らし合わせることで係数kを求めます。
過渡解i_tと、定常解i_sを足し合わせたときの回路の電流iは、次式で表されます。
i=i_t+i_s
スイッチ投入した直後(t_0=0)の時の回路の電流をi_0とします。
スイッチ投入直後は、コイルは電流を遮断して流さないので、i_0=0Aです。
過渡状態解析の結果から、\displaystyle i_t=ke^{-\frac{R}{L}t}
定常状態解析の結果から、\displaystyle i_s=\frac{E}{R}
\displaystyle i_0=i_t+i_s=ke^{-\frac{R}{L}0}+\frac{E}{R}=ke^0+\frac{E}{R}=k+\frac{E}{R}=0
⇔ \displaystyle k=-\frac{E}{R}
定数kが求められたので、過渡解i_tが求まりました。
\displaystyle i_t=-\frac{E}{R}e^{-\frac{R}{L}t}
過渡解・定常解の合成
過渡解の定数kが求まったので、一般解iが求められます。
\displaystyle i=i_t+i_s=-\frac{E}{R}e^{-\frac{R}{L}t}+\frac{E}{R}
⇔\displaystyle i=\frac{E}{R}\left( 1-e^{-\frac{R}{L}t} \right)
この求まった式をグラフにすると、下図のようになります。

RC直列回路の過渡解析
t_0=0sのタイミングで、RC直列回路のスイッチを投入した場合の過渡解析をします。
求めるものは、コンデンサの電圧v_c[V]、回路に流れる電流i[A]と、時定数τ。
初期条件はv_{c0}=0Vとします。
①回路の微分方程式の立式
RC直列回路の電圧の関係は、キルヒホッフの電圧則から E=v_R+v_c …(1)

電流は1秒間に導体の断面を通過する電荷量なので、電流i[A]と電荷q[C]の関係は、次式で表されます。
\displaystyle i=\frac{dq}{dt} …(2)
コンデンサの電荷、静電容量、電位の関係式から
q=Cv_c …(3)
(2)式に(3)式を代入すると、回路中に流れる電流と、コンデンサの電位の関係式が求まります。
\displaystyle i=C\frac{dv_c}{dt} …(4)
抵抗の端子間電圧v_Rは、(4)式を代入することで次式となります。
\displaystyle v_R=Ri=CR\frac{dv_c}{dt} …(5)
(1)式に(5)式を代入すると、次の微分方程式が成り立ちます。
E=CR\frac{dv_c}{dt}+v_c …(6)
②過渡解から時定数を計算
過渡状態のコンデンサの電圧v_{ct}としたとき、v_{ct}に掛かる係数をkとsとすると、次式で表されます。
v_{ct}=ke^{-st} …(7)
v_{ct}を微分すると、
\displaystyle \frac{dv_{ct}}{dt}=-ske^{-st} …(8)
過渡状態の回路方程式は、次式となります。
\displaystyle 0=CR\frac{dv_{ct}}{dt}+v_{ct} …(9)
(9)式に(7)・(8)式を代入すると、
-CRske^{-st}+ke^{-st}=(1-CRs)ke^{-st}=0 …(10)
(10)式が成り立つ条件から、係数sが求まります。
\displaystyle s=\frac{1}{CR} …(10)
時定数τは、係数sの逆数なので、
τ=CR …(11)
指数の係数sが(10)式の通り求まりましたので、過渡状態の電圧(7)式に代入します。
v_{ct}=ke^{-\frac{1}{CR}t} …(12)
③定常状態を解析して収束値を計算
定常状態のコンデンサの電位をv_{cs}として定常状態を解析します。
定常状態ではコンデンサの電圧は変化しないので、
\displaystyle \frac{dv_{cs}}{dt}=0
このときのコンデンサの電圧v_{cs}は、電源電圧と同じになります。
v_{cs}=E …(13)
④初期条件から、過渡解の定数kを求める
過渡解v_{ct}と、定常解v_{cs}を足し合わせたときの回路の電流v_cは、次式で表されます。
v_c=v_{ct}+v_{cs} …(14)
スイッチ投入した直後t_0=0の時の回路のコンデンサをv_{c0}とします。
スイッチ投入直後はv_{c0}=0Vです。
v_{c0}=v_{ct}+v_{cs}=0 …(15)
(12)式の過渡状態解析の結果から、\displaystyle v_{ct}=ke^{-\frac{1}{CR}t}
(13)式の定常状態解析の結果から、\displaystyle v_{cs}=E
(15)式に(12)・(13)式を代入して、t=0を代入すると、次の通り展開されます。
v_{c0}=v_{ct}+v_{cs}=ke^{-\frac{1}{CR}t}+E=ke^0+E=k+E=0
⇔k=-E …(16)
定数kが求められたので、過渡解v_{ct}が求まりました。
v_{ct}=-Ee^{-\frac{1}{CR}t} …(17)
⑤一般解を求める
過渡解の定数kが求まったので、一般解v_cが求められます。
v_c=v_{ct}+v_{cs}=-Ee^{-\frac{1}{CR}t}+E
⇔v_c=E\left( 1-e^{-\frac{1}{CR}t} \right) …(18)
この求まった式をグラフにすると、下図のようになります。

⑥電流iを求める
v_cの一般解である(18)式
v_c=E\left( 1-e^{-\frac{1}{CR}t} \right)
を、電流の式である(4)式
\displaystyle i=C\frac{dv_C}{dt}
に代入することで、回路中の電流の過渡応答が求まります。
\displaystyle i=CE\frac{d}{dt}\left( 1-e^{-\frac{1}{CR}t} \right)
⇔\displaystyle i=CE \left( -\frac{1}{CR} \right) ・ \left( -e^{-\frac{1}{CR}t} \right)
⇔\displaystyle i=\frac{E}{R} e^{-\frac{1}{CR}t} …(19)
この求まった式をグラフにすると、下図のようになります。

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参考書
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