地絡方向継電器(DGR)#2【整定方法】

DGRの整定方法 継電器

各整定値を検討していくうえで、現在、私が使用しているDGRは、三菱電機製のDGR(型式:MDG-A3V-R)を使用しているため、それをベースに記事を書いていきます。
他メーカーも、基本的な設定項目は同じだと思います。

もし、保護協調、感度協調、時限協調等の言葉について知りたい場合は、説明したページがあるので、ご参照ください。

1. DGRの設定パラメータ一覧

三菱電機製のDGR(MDG-A3V-R)の設定パラメータ一覧は、以下の通りです。

パラメータ名設定範囲
零相電圧V0 [%]2・2.5・3・4・5・6・7.5・8・9・10
零相電流I0 [A]0.1・0.2・0.4・0.6・0.8・1.0
動作時間 [s]瞬時・0.2・0.3・0.4・0.5・0.6・0.7・0.8・0.9・1.0
ディップスイッチ1(周波数)ON:50Hz、OFF:60Hz
ディップスイッチ2(出力接点)ON:自己保持、OFF:自動復帰
ディップスイッチ3(最大感度角)ON:進み10°、OFF:進み45°

2. 零相電圧V0[%]の整定

需要家の場合、5[%]の整定をするのが一般的だと思います。
それ以外の数値に整定することはあまり聞きません。

これは、電力会社の配電用変電所のDGRの零相電圧との感度協調を図るためです。
電力会社の配電用の零相電圧は、10~15[%]が多いと聞きますが、場所場所で異なると思います。

そのため、この整定値を決める時には、必ず電力会社との協議が必須です

2.2. 零相電圧V0=5[%]って何V?

零相電圧の整定値の単位は[V]ではなく、[%]で表記されているため、戸惑う人が多いと思います。
この零相電圧が実際に何Vになるかについて、5[%]を例に計算します。

高圧配電系統の線間電圧は、V=6600[V]
相電圧:
零相電圧V0:E×5% = 3810 × 0.05 ≒ 190[V]

つまり、V0=5[%]と設定時、190[V]の零相電圧を検知すると零相電圧が発生したとDGRが認識します。

何故、3810[V]を基準にするかと言いますと、DGRが監視している一線地絡事故が起きたときの電圧は対地電圧であるため、線管電圧ではなく相電圧となるためです。

3. 零相電流I0[A]の整定

需要家の場合、0.2[A]に整定をするのが一般的だと思います。
これ以外の数値に整定することは、ほぼ無いでしょう。

零相電圧と同じく、電力会社の配電用変電所のDGRの零相電流との感度協調を図るためです。
電力会社の配電用の零相電流は、0.2[A]で整定されることが多いようです。

零相電流も、感度協調を適正に保つため、整定値を決める時には、必ず電力会社との協議が必須です。

3.2. 何故0.2[A]?

0.1「A]にすると、感度が高すぎるため、誤動作をする危険性が高まります。
しかし、電力会社の配電用変電所のDGRが0.2[A]と設定されているため、感度協調の関係で、0.2Aより高く設定出来ません。
そのため、0.2[A]の整定となります。

4. 動作時間[s]の整定

動作時間の整定が、DGRの各パラメータの整定において、最も重要な設定です。

そして、その中でも重要なことは、上位系統のDGRと、下位系統のDGRの動作時間に0.3[s]以上の差をつけて設定することです。
その理由は、0.3[s]以上の差が無いと、上位系統のDGRと、下位系統のDGRが同時に動作するシリ―ストリップと呼ばれる現象が発生する可能性があるためです。

電力会社の配電用変電所のDGRの動作時間が0.9[s]だとした場合、選択できる範囲は、
・上位系統のDGR:0.5~0.6[s]
・下位系統のDGR:0.2~0.3[s]
の設定辺りとなるでしょう。

私が整定する場合は、電力会社の配変側の動作時間との時間的な余裕を出来るだけ多めに確保したいので、
・上位系統のDGRの動作時間を0.5[s]
・下位系統のDGRの動作時間を0.2[s]
と設定します。
電力会社の配電用変電所の動作時間が0.9[s]とした場合の、タイムラインは、左図のようになります。

この例では、配電用変電所の動作時間が0.9[s]としていますが、必ずしもそうであるとは限りません。ですので、時限協調を適正に保つため、整定値を決める時には、必ず電力会社との協議をしてから動作時間を最終決定しましょう。

4.2. シリ―ストリップ

上位DGRと下位DGRが同時に動作してしまうシリ―ストリップについて図にしました。
左の図が時限協調がOKな例、右の図が時限協調NGの例です。

例:時限協調OK例:時限協調NG (シリ―ストリップ発生)

左の時限協調OKの例では、緑背景とした余裕時間があるため、同時に動作しません。
しかし、右の時限協調NGの例では、橙背景をした不協調範囲があるため、シリ―ストリップが発生する可能性があります。

5. ディップスイッチ1(周波数)の整定

このディップスイッチの設定は、周波数の設定を切り替えるためのスイッチです。

使用している電源系統が50HzであればONにします。
使用している電源系統が60HzであればOFFにします。

6. ディップスイッチ2(出力接点)の整定

このディップスイッチの設定は、出力接点の設定を切り替えるためのスイッチです。ONにすると自己保持。OFFにすると自動復帰します。

DGRが動作した後、下記3つのうちのどれか一つでも条件を満たすと復帰可能になります。
1.零相電流が整定値未満になる。
2.零相電圧が整定値未満になる。
3.動作位相外になる。

【自己保持に設定した場合】
復帰可能になっても、出力接点から出力され続けます。
復帰したいときは、CPUリセットボタンを押すと復帰します。

【自動復帰に設定した場合】
復帰可能状態になると、自動で出力接点からの出力がされなくなります。

【どちらに設定すべきか?】
キュービクルの制御回路に動作後の自己保持回路が無ければ、自己保持に設定。
自己保持回路が有るなら、自動復帰で良いと思います。

【注意点】
制御電源が喪失すると、自己保持できなくなりますので、注意が必要です。
動作表示器は自動リセットされないので安心してください。

7. ディップスイッチ3(最大感度角)の整定

零相電圧V0[%]と、零相電流I0[A]の位相差の最大感度角の整定スイッチです。

電源系統が、非接地系の場合は、進み45°にするためOFFにします。
PC接地系の場合は、進み10°にするためONにします。

高圧配電系統は、基本的に接地系です。
PC接地系は、四国電力管内にあるらしいと聞いたことがある程度です。

自分の管理する施設の配電系統の接地系が何に該当するか、電力会社に聞くと良いです。

8. まとめ

  • 零相電圧V0、零相電流I0と動作時間、の整定は、電力会社と協議をしましょう。
  • 零相電圧V0は、5[%]設定することが多いです。
  • 零相電流I0は、0.2[A]設定することが多いです。
  • 動作時間の上位と下位は、0.3[s]の差を設けましょう。
  • ディップスイッチ1(周波数)は、利用している電源系統の周波数に合わせてください。
  • ディップスイッチ2(出力接点)は、自己保持と自動復帰の設定です。
  • ディップスイッチ3(最大感度角)は、非接地系はOFF、PC接地系はONです。
  • 使用場所の接地系については、必要に応じて電力会社に問い合わせてください。

9.参考書

保護協調に超特化した一冊。実務に近い解説が多いため、仕事で使う参考書としてお勧め。


実際にリレーを整定する場合にも、とても参考になる一冊。


電気設備の技術基準とその解釈について分かり易く解説されている一冊。


値段は高いが、幅広い解説がある。手元に置いておきたい一冊。


内線規程です。
電気設備に関する技術基準を定める省令や電気設備技術基準の解釈で不足する部分を具体的に補完する民間規格です。法的拘束力がある規格ではありませんが、設備設計、電気工事において、まず初めに参照するルールです。

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