零相変圧器(ZPD)は、地絡方向継電器と組合わせて使用する、地絡保護には欠かせない変流器です。
そんなZPDについて、動作原理から、重要な注意点まで一通り説明したいと思います。
零相変圧器とは
概要
零相変圧器は、ZPD(Zero-phase Potential Device)と呼ばれ、地絡発生時に生じる零相電圧を検出する装置です。
他の略称として、ZPC(Zero-phase Potential Capacitor)や、ZVT(Zero-phase Voltage Transformer)等がありますが、どれも同じものを指します。
なお、ZPCは、光商工というメーカーの製品名です。
設置目的
零相電圧を検出するZPDを設置する目的は、もらい事故を防ぐためです。
地絡事故を検出するだけであれば、零相変流器(ZCT)で零相電流を検出して地絡継電器(GR)に検出情報を送るだけでも保護できます。
しかし、構内の送電線が長くなると、送電線の対地静電容量が増加します。そうなると、地絡事故が構外で起きたとき、対地静電容量からZCT内を通って逆流する量が増えます。
構外に逆流する零相電流量がGRの設定値を超えたとき、地絡事故が発生したと誤検知してしまいます。
これが、もらい事故です。
それを防ぐために、ZPDで検出した零相電圧と、ZCTで検出した零相電流の位相を地絡方向継電器(DGR)で比較します。
構内で地絡事故が起きた時の零相電圧と零相電流の位相は、零相電流が少し進み位相となります。
構外で地絡事故が起きた時の零相電圧と零相電流の位相は、零相電流が90°遅れ位相となります。
そのため、左図の様に位相によって動作領域を決めることで、もらい事故を防ぐことが出来ます。
動作概要
結線図
U・V・W相の各相に\(C_u\)・\(C_v\)・\(C_w\)のコンデンサを接続し、もう一端を三相一括して\(C_g\)に接続します。
\(C_g\)のもう一端はA種接地します。
・\(C_u\)・\(C_v\)・\(C_w\)は250pF
・\(C_g\)は0.15uF
・変圧器の変圧比は20:1
とします。
通常時
通常時は、\(V_u+V_v+V_w=0\)となり、
\(V_u\)、\(V_v\)、\(V_w\)がそれぞれ打ち消しあうため、\(V_g=0\)となります。
一線地絡発生時
V相が一線地絡したとした場合、零相電圧Vgは、相電圧をEとすると、零相電圧はその3倍の3Eとなるので、
\(\displaystyle 3E=3×\frac{6600}{\sqrt{3}}=11430V\)
となります。
その零相電圧を、直列接続したコンデンサで分圧するので、
\(\displaystyle \begin{eqnarray}
V_g&=&\frac{C}{C+C_g}×3E \\
&=&\frac{250}{250+150000}×11430 \\
&=&19.02[V]
\end{eqnarray}\)
と求まります。
出力トランスが、\(V_g:V_o=20:1\)とすると、
\(\displaystyle V_o=\frac{1}{20}V_g=0.95[V]\)
と求まり、完全地絡時には、約1[V]の電圧が出力されます。
選定について
ZPDは、使用電力量等を考慮に入れて選定する必要はありませんが、ZPDは物によって、コンデンサ容量や、変圧比が異なるため、出力電圧も変わってきます。
そのため、使用する保護継電器に対応するZPDを使用することが重要です。
同じメーカーでも、新旧によって、ZPD、ZCT、保護継電器の仕様が異なってくる場合があります。
新設の場合はセットで取り付けるため特に問題はありませんが、保護継電器を交換する等の修繕をする際には注意が必要です。保護継電器を更新する際は、ZPD、ZCTとの対応をしっかりと確認しましょう。
注意事項
三相電路からの単相取り
各相の対地静電容量にアンバランスがあると、地絡が発生していなくても、零相電圧が発生します。
【NG例】
U・V相に単相負荷の結線を接続し、W相には何も接続しなかった場合。
U・V相には対地静電容量Cu・Cvが発生しますが、W相には何も接続されていない状態となります。その結果、対地静電容量がアンバランスになり、零相電圧が発生します。
【OK例】
対地静電容量が発生することを考慮し、3芯の線を使用します。
単相負荷には接続しなくとも、W相にもケーブルを接続することで、対地静電容量のアンバランスを防ぐことが出来ます。
配線の取付間違え
【NG例】
ZPDの出力線の極性を逆にして保護継電器に取り付けると、不要動作や不動作の原因となります。
信号配線端子を多点設置
【NG例】
ZPD、ZCTのそれぞれで接地をして2箇所接続としてしまうのはNGです。
誘導などで還流が発生し、不要動作につながる可能性があるため、接地は1箇所にしましょう。
【OK例】
ZPD、ZCTをDGRに接続するときは、左図のように接続します。
ZPDは、y1-Y1、y2-Y2の接続
ZCTは、z1-Z1、z2-Z2の接続をします。
接地は1箇所だけします。
参考書
保護協調に超特化した一冊。実務に近い解説が多いため、仕事で使う参考書としてお勧め。
実際にリレーを整定する場合にも、とても参考になる一冊。
電気設備の技術基準とその解釈について分かり易く解説されている一冊。
値段は高いが、幅広い解説がある。手元に置いておきたい一冊。
内線規程です。
電気設備に関する技術基準を定める省令や電気設備技術基準の解釈で不足する部分を具体的に補完する民間規格です。法的拘束力がある規格ではありませんが、設備設計、電気工事において、まず初めに参照するルールです。
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