地絡方向継電器(DGR)は、受変電設備の安全を守るために、欠かすことが出来ない安全装置です。
DGRは、適切な設定値に整定しないと、地絡事故が起きたときに、予想外に広範囲の停電が起きてしまうので、しっかりと考えを持ったうえで整定することが求められます。
整定値を決める上で、最も大事な保護協調に触れてから、保護協調を取る方法について掘り下げていきます。
1.結論
まず初めに、結論からお伝えします。気になった所がありましたら、詳細を見て行ってください。
- 保護協調は、波及事故と呼ばれる広域停電を起こさないために、適切に行う。
- 保護協調の取り方は、感度協調と時限協調とある。
- DGRの感度協調は、電力会社に影響を与えない設定値とすれば良い。
- DGRの時限協調は、上位DGRと下位DGRの動作時間の間に0.3秒の差を設ける。
2.保護協調とは
保護協調とは、地絡事故が発生した時、事故点に最も近い継電器を動作させることで、事故区間のみを切り離します。
そうすることにより、他の健全な回路を守ることです。
電力会社の配電網から受電して、各変電所で持っている保護装置間の感度や動作時間を相互に調整することで、保護協調が出来ます。
保護協調は、使用設備内の保護協調を取ることも大事ですが、電力会社の変電所との保護協調はもっと重要です。
3.保護協調の例
下の図は、保護協調が取れている場合と、保護協調が取れていない場合について、比較するために作った図です。地絡した設備の影響によって、停電する場所をオレンジ背景、停電しない場所を白背景としています。
図1.保護協調が全く取れていない最悪の場合(波及事故)
図2.保護協調が取れていない場合(上位系統も動作)
図3.保護協調が取れている場合(下位系統のみで完結)
4.保護協調が取れていない時の影響
保護協調が一切取れていない場合、最悪、電力会社の変電所の継電器を動作させることになります。
こうなると、波及事故と呼ばれる地域単位での停電につながります。
波及事故によって、病院に影響を与えた場合、人命に関わる重大事故です。
病院が近くになかったとしても、停電したことによって損害を受けた人が居れば、損害賠償請求されることもあります。
保護協調が出来ていないと、波及事故につながらなかったとしても、上の例で言うとUGSやA変電所の様な電力会社の配電網に近い上位系統の継電器が動作するため、停電による損失が大きくなります。また、広範囲の停電になることから、地絡事故を起こした原因の特定に時間がかかってしまい、復旧が遅れる事にもつながります。
そのため、保護協調をしっかりと取り、事故点近くで影響を抑え込む事が出来るようにしなければなりません。
5.保護協調の取り方
保護協調を取る上で重要な点は2点あります。
①地絡事故点に近い下位系統の継電器が動いて、上位系統の継電器が動かないようにする
②誤動作をしてはならない
この2点を上手く取るための調整方法として、継電器には、
・時限協調
・感度協調
の2つの方法があります。
しかし、DGRに関しては、時限協調が、基本となります。
6.感度協調について
DGRの感度協調は、電力会社との協調を取り、電力会社の配電網に影響を与えない整定値にすることは必須です。そのため、電力会社の配電用変電所の零相電圧V0(%)、零相電流I0(A)より、感度を上げるか、同等とする必要があります。
しかし、管理している設備内の感度協調を取る必要性はないので、全て同じとしてしまって良いと考えています。
それはなぜか?
・完全地絡の場合
地絡抵抗が0Ωのため、感度に関わらず全継電器が時間カウントを始めます。
こうなると、動作時間を短く設定したDGRが先に動作し、遅く動作するように設定したDGRは動作しません。つまり、時限協調しか意味がありません。
・不完全地絡の場合
ある程度抵抗値を持つ不完全地絡が発生した場合を考えます。
この場合、どのくらいの抵抗値を持った地絡が発生するかはわかりません。瞬間瞬間で抵抗値も変化することもあります。そのため、感度を調整したところで、敏感に設定したDGRだけが時間カウントをして、鈍感に設定したDGRが時間カウントをしないという動作を保証することはできません。
このことから、感度協調は不完全地絡でも意味がないです。
7.時限協調について
上位のDGRと、下位のDGRの動作時間は、0.3秒の差をつけなければなりません。
その理由は、シリ―ストリップという現象が起きてしまうためです。
シリ―ストリップとは、下位のDGRが地絡を検知して遮断器を動作させている間に、上位のDGRが地絡を検知してしまう現象です。
これは、遮断器が遮断するまでにかかるタイムラグがあるために起こる現象です。このタイムラグを遮断時間と呼びます。
遮断時間は、0.1秒程度を見込む必要があります。
また、DGRの中に円盤が組み込まれた古いタイプでは、地絡を検出して円盤が回転し始めてから、下位のDGRによる事故点遮断をしてから、動作を中断するまでにも時間的な余裕が必要です。これを慣性動作時間と呼びます。
慣性動作時間は、0.15秒程度を見込む必要があります。
8.時限協調整定例
時限協調のOK例と、NG例を図にします。
【OK例】
上位DGR整定時間:0.5秒
下位DGR整定時間:0.2秒
【NG例】
上位DGR整定時間:0.5秒
下位DGR整定時間:0.3秒
9.参考書
保護協調に超特化した一冊。実務に近い解説が多いため、仕事で使う参考書としてお勧め。
実際にリレーを整定する場合にも、とても参考になる一冊。
電気設備の技術基準とその解釈について分かり易く解説されている一冊。
値段は高いが、幅広い解説がある。手元に置いておきたい一冊。
内線規程です。
電気設備に関する技術基準を定める省令や電気設備技術基準の解釈で不足する部分を具体的に補完する民間規格です。法的拘束力がある規格ではありませんが、設備設計、電気工事において、まず初めに参照するルールです。
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