概要
負帰還増幅回路の特徴に関する論説問題です。
正解の選択肢は基礎レベルの事を問われているため、問題としては簡単です。
しかし、全ての選択肢について理解した上で回答するとなると、負帰還について深い知識を問われます。
キーワード
負帰還増幅回路、電圧増幅度、帰還率、利得(ゲイン)、帯域幅
問題
図のように電圧増幅度\(A_v(>0)\)の増幅回路と帰還率\(β(0<β≦1\)の帰還回路からなる負帰還増幅回路がある。
この負帰還増幅回路に関する記述として、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
ただし、帰還率\(β\)は周波数によらず一定であるものとする。
(1)負帰還増幅回路の帯域幅は、負帰還をかけない増幅回路の帯域幅よりも狭くなる。
(2)電源電圧の変動に対して負帰還増幅回路の利得は、負帰還をかけない増幅回路よりも不安定である。
(3)負帰還をかけることによって、増幅回路の内部で発生するひずみや雑音が増加する。
(4)負帰還をかけない増幅回路の電圧増幅度\(A_v\)と帰還回路の帰還率\(β\)の積が1より十分小さいとき、負帰還増幅回路全体の電圧増幅度は帰還率\(β\)の逆数で近似できる。
(5)負帰還増幅回路全体の利得は、負帰還をかけない増幅回路の利得よりも低下する。

答え
(5)
解説テキスト リンク
回答解説
(1)【誤り】
負帰還増幅回路の帯域幅は、負帰還をかけない増幅回路の帯域幅よりも狭くなる。

ゲインと帯域幅がわかりやすいように、ボード線図を示します。
負帰還増幅回路は閉ループゲイン\(A_{vc}\)となり、開ループゲイン\(A_{vo}\)より小さくなりますが、帯域幅は、帯域幅(閉ループ)に示す通り広がります。
(2)【誤り】
電源電圧の変動に対して負帰還増幅回路の利得は、負帰還をかけない増幅回路よりも不安定である。
電源電圧変動除去比(PSRR)の問題です。
PSRRは、電源電圧の変動に対するゲインと差動入力時の電圧ゲインの比として決められています。
PSRRは、負帰還では良くも悪くもならないです。
しかし、負帰還をすることによって回路のゲインが、開ループゲイン\(A_{vo}[dB]\)から、閉ループゲイン\(A_{vc}[dB]\)に小さくなるため、その結果として電源電圧変動は小さくなります。
そのため、負帰還をかけない増幅回路よりも安定となります。
(3)【誤り】
負帰還をかけることによって、増幅回路の内部で発生するひずみや雑音が増加する。

入力信号は\(X\)、出力信号は\(Y\)、雑音は\(N\)としたとき、出力信号の伝達関数を求めます。
\(E=X-βY\) …①
\(Y=AE+N=A(X-βY)+N\) …②
②式に①式を代入して整理します。
\((1+Aβ)Y=AX+N\)
⇔\(\displaystyle Y=\frac{A}{1+Aβ}X+\frac{1}{1+Aβ}N\) …③
③式から、理想オペアンプのゲイン\(A=∞[dB]\)とすると、
雑音を表す項は、
\(\displaystyle \frac{1}{1+Aβ}N≒0\)
となり、ほぼ0となります。
したがって、負帰還をかけることによって、増幅回路の内部で発生するひずみや雑音が減少します。
(4)【誤り】
負帰還をかけない増幅回路の電圧増幅度\(A_v\)と帰還回路の帰還率\(β\)の積が1より十分小さいとき、負帰還増幅回路全体の電圧増幅度は帰還率\(β\)の逆数で近似できる。

負帰還の伝達関数を求めます。
出力信号を帰還回路を通して入力に戻したときの信号は、\(βY\)です。
入力信号\(X\)から、\(βY\)を引いたものが\(E\)なので、
\(E=X-βY\)
\(E\)を増幅回路\(A_v\)に通すと出力信号\(Y\)となるので、\(Y\)の式は次のように表されます。
\(Y=A_vE=A_v(X-βY)\)
⇔\(\displaystyle (1+A_vβ)Y=A_vX\)
⇔\(\displaystyle Y=\frac{A_v}{1+A_vβ}X\) …①
となります。
(4)の文章から、\(A_vβ<<1\)とした時を考えます。①式に代入すると、
\(\displaystyle Y=\frac{A_v}{1+A_vβ}X≒\frac{A_v}{1+0}X=A_vX\) …②
となるので、負帰還増幅回路全体の電圧増幅度は\(A_v\)となります。
(5)【正しい】負帰還増幅回路全体の利得は、負帰還をかけない増幅回路の利得よりも低下する。

ボード線図から、
負帰還増幅回路は閉ループゲイン\(A_{vc}\)となり、開ループゲイン\(A_{vo}\)より小さくなります。
出典元
一般財団法人電気技術者試験センター (https://www.shiken.or.jp/index.html)
令和1年度 第三種電気主任技術者試験 理論科目A問題問13
参考書
イラストがとても多く、視覚的に理解しやすいので、初学者に、お勧めなテキストです。
問題のページよりも、解説のページ数が圧倒的に多い、初学者に向けの問題集です。
問題集は、解説の質がその価値を決めます。解説には分かりやすいイラストが多く、始めて電気に触れる人でも取り組みやすいことでしょう。
本ブログの管理人は、電験3種過去問マスタを使って電験3種を取りました。
この問題集の解説は、要点が端的にまとまっていて分かりやすいのでお勧めです。
ある程度学んで基礎がある人に向いています。
コメント