概要
交流回路の電力、電圧、電流、インピーダンスは三角関数(sinθ、cosθ)で表されますが、計算が大変なので簡略する方法としてフェーザ表示を使います。
本ページでは、三角関数とフェーザ表示の関係を紹介した後、フェーザ表示の計算と、複素電力について紹介していきます。
三角関数から複素数への変換
①複素数平面の虚軸成分と、三角関数のsin成分の対応

複素数平面の虚軸の成分の大きさを三角関数に反映させると、
電圧は\(jv(t)=jV_msinθ\)
と表されます。
②複素数平面の実軸成分と、三角関数のcos成分の対応

複素数平面の実軸の成分の大きさを三角関数に反映させると、
電圧は\(v(t)=V_mcosθ\)
と表されます。
③実軸・虚軸をまとめて直交座標表示で示す

上記の実軸・虚軸成分をまとめ、交流電圧を直交座標表示で示すと
\(v(t)=V_m(cosθ+jsinθ)\)
と表すことができます。
④オイラーの公式を使用して三角関数を複素指数関数に変換

複素指数関数である\(e^{jθ}\)と、三角関数をつなげる式であるオイラーの公式
\(e^{jθ}=(cosθ+jsinθ)\)
を使い、直交座標表示の電圧を極座標表示に変換すると、
\(v(t)=V_me^{jθ}\)
と表すことができます。
\(V_me^{jθ}\)と、指数表示で表記するのは手間なので、\(V_m∠θ\)と表記することをフェーザ表示と呼びます。
フェーザ表示の電力
フェーザ表示の計算
三角関数で表すことが出来るものを、何故わざわざフェーザ表示にするかというと、計算が非常に簡単になるためです。
その計算方法は、フェーザで表記された電圧、電流、インピーダンスの計算は、大きさの計算と、位相角の計算の2つを別々に分けて計算します。
フェーザ表示の計算方法
・大きさの計算
普通のオームの法則の通りに計算します。
・位相角の計算
乗算の場合は位相角を加算します。除算の場合は位相角を減算します。
フェーザの計算の具体例
電圧\(\dot{V}=V∠θ_v\)、電流\(\dot{I}=I∠θ_i\)、インピーダンス\(\dot{Z}=Z∠θ_z\)としたとき、オームの法則の式は、次のように表されます。
・電圧\(\dot{V}\)
\(\dot{V}=\dot{I}・\dot{Z}\)
➡ \(V∠θ_v=I∠θ_i・Z∠θ_z=IZ∠(θ_i+θ_z)\)
・電流\(\dot{I}\)
\(\dot{I}=\frac{\dot{V}}{\dot{Z}}\)
➡ \(I∠θ_i=\frac{V∠θ_v}{Z∠θ_z}=\frac{V}{Z}∠(θ_v-θ_z)\)
・インピーダンス\(\dot{Z}\)
\(\dot{Z}=\frac{\dot{V}}{\dot{I}}\)
➡ \(Z∠θ_z=\frac{V∠θ_v}{I∠θ_i}=\frac{V}{I}∠(θ_v-θ_i)\)
フェーザの位相角の計算の原理
フェーザ表示の電圧・電流・インピーダンスの計算は、複素指数関数の乗算・除算を行っています。
複素指数関数の乗算・除算は、次のように計算されます。
乗算:\(e^{jA}・e^{jB}=e^{j(A+B)}\)
フェーザに戻すと ➡ \(e^{j(A+B)}=e∠(A+B)\)
除算:\(\frac{e^{jA}}{e^{jB}}=e^{j(A-B)}\)
フェーザに戻すと ➡ \(e^{j(A-B)}=e∠(A-B)\)
フェーザ表示の裏でこの計算がされていることによって、フェーザ表示の位相角の加減算が成り立っています。
フェーザ表示の皮相電力\(\dot{S}\)
フェーザで表示された皮相電力\(\dot{S}\)は、電圧\(\dot{V}=V∠θ_v\)、電流\(\dot{I}=I∠θ_i\)としたとき、共役複素数を使って次のように表記されます。

\(\begin{array}{l}
\dot{S}&=&\dot{V}・\bar{\dot{I}}\\
&=&V∠θ_v・I∠-θ_i\\
&=&VI∠(θ_v-θ_i)\\
&=&VI∠θ
\end{array}\)
※\(θ=θ_v-θ_i\)としました。
共役複素数を使用せずに、単純に電圧と電流を乗算して\(\dot{S}=\dot{V}・\dot{I}\)とした場合、\(θ_v\)と、\(θ_i\)は加算されるため、\(θ=θ_v+θ_i\)となってしまいます。
こうなると、電力の正しい位相を得ることができなくなってしまいます。
そこで、共役複素数を使い\(\dot{S}=\dot{V}・\bar{\dot{I}}\)とすると、電流の位相は\(-θ_i\)となるため、電圧と電流の位相差角\(θ=θ_v-θ_i\)を得ることが出来ます。
このことから、電力を計算するときは、共役複素数を使う必要があるのです。
共役複素数の取り方
前例では、電流の共役複素数を取り、\(\dot{S}=\dot{V}・\bar{\dot{I}}\) としました。
それでは、電流ではなく、電圧の共役複素数を取り、\(\dot{S}=\bar{\dot{V}}・\dot{I}\) とした場合はどうなるでしょうか?
結論
・\(\dot{S}=\dot{V}・\bar{\dot{I}}\)の複素電力\(\dot{S}\)は、遅れ無効電力が正となります。
・\(\dot{S}=\bar{\dot{V}}・\dot{I}\)の複素電力\(\dot{S}\)は、進み無効電力が正となります。
電力の進み無効電力、遅れ無効電力とは何か
・進み無効電力
電流の位相\(I\)が電圧の位相\(V\)よりも進んでいるときに発生する電力です。
・遅れ無効電力
電流の位相\(I\)が電圧の位相\(V\)よりも遅れているときに発生する電力です。
・\(\dot{S}=\dot{V}・\bar{\dot{I}}\)の複素電力\(\dot{S}\)が、遅れ無効電力が正となる理由
複素電力の位相\(θ=θ_v-θ_i\)が正となる条件は、(\(θ_v>θ_i\))のときです。
つまり、電流の位相\(θ_i\)が電圧の位相\(θ_v\)よりも遅れているときです。
このことから、遅れ無効電力が発生しているときに、複素電力\(\dot{S}\)が正となるため、遅れ無効電力が正となると言えます。
・\(\dot{S}=\bar{\dot{V}}・\dot{I}\)の複素電力\(\dot{S}\)が、進み無効電力が正となる理由
複素電力の位相\(θ=θ_i-θ_v\)が正となる条件は、(\(θ_i>θ_v\))のときです。
つまり、電流の位相\(θ_i\)が電圧の位相\(θ_v\)よりも進んでいるときです。
このことから、進み無効電力が発生しているときに、複素電力\(\dot{S}\)が正となるため、進み無効電力が正となると言えます。
\(\dot{S}=\dot{V}・\bar{\dot{I}}\)と、\(\dot{S}=\bar{\dot{V}}・\dot{I}\)を図示すると下図のようになります。
\(\dot{S}=\dot{V}・\bar{\dot{I}}\)のときの位相の関係図

\(\dot{I}\)が、\(\dot{V}\)よりも遅れているとき(遅れ無効電力が発生しているとき)、\(\dot{S}\)の無効電力は正となります。
\(\dot{S}=\bar{\dot{V}}・\dot{I}\)のとき位相の関係図

\(\dot{I}\)が、\(\dot{V}\)よりも進んでいるとき(進み無効電力が発生しているとき)、\(\dot{S}\)の無効電力は正となります。
関連記事(その他)
参考書
イラストがとても多く、視覚的に理解しやすいので、初学者に、お勧めなテキストです。
問題のページよりも、解説のページ数が圧倒的に多い、初学者に向けの問題集です。
問題集は、解説の質がその価値を決めます。解説には分かりやすいイラストが多く、始めて電気に触れる人でも取り組みやすいことでしょう。
本ブログの管理人は、電験3種過去問マスタを使って電験3種を取りました。
この問題集の解説は、要点が端的にまとまっていて分かりやすいのでお勧めです。
ある程度学んで基礎がある人に向いています。
コメント