以前の記事で、保護協調についての解説や、DGRの整定値について解説しました。
もし、保護協調や整定について学びたい人は、下記アイコンからご参照ください。
保護協調を端的に言うと、上位系統よりも、下位系統のDGRを早く動作させましょうということです。
このページでは、サブ変電所をいくつか持っている施設を想定し、設定値毎の停電範囲を示すことで、保護協調の重要性について触れて行きます。
1. 保護協調の設計
本ページでは、概念的な説明ではなく、例題のような具体的な事例を交えて検討してみます。
1.1. 例題
下図のように、電力会社配電網からUGSで受電し、A~E変電所に送るような施設を考えてみます。
A・B・C変電所は、停電すると大きな損失が発生する変電所とします。
D・E変電所は、停電してもあまり影響のない変電所とします。
※黄色背景は重要な設備とし、水色背景は重要でない設備(停電を許容できる)とします。
1.2. 検討事項一覧
①電力会社の変電所の整定値確認
②GR付UGSの整定
③A・B・D変電所の整定
④C・E変電所の整定
1.2.1. 電力会社の変電所の整定値確認
電力会社の配電用変電所のDGRの整定値がわからないと、GR付UGSの動作時間を設定することが出来ません。なので、まず初めに、配電用変電所の零相電圧整定値、零相電流整定値、動作時間を電力会社に問い合わせます。
1.2.2. GR付UGSの整定
電力会社と需要家の責任分界点であるUGSやPASのGRの整定を行います。
GR付UGSやPASは、DGRと同じ物と考えて検討します。
【零相電圧 整定値】
電力会社から、5%を指定されると思います。
【零相電流 整定値】
電力会社から、0.2Aを指定されると思います。
【動作時間 整定値】
電力会社の整定値に対して、0.3秒以上の猶予を持たせることが必須です。
例えば、電力会社が0.9秒で整定しているのであれば、整定値の上限は0.6秒です。
0.6秒でも良いですが、電力会社との動作時間の差は出来るだけ取りたいので、0.5秒とします。
1.2.3. A・B・D変電所の整定
【零相電圧 整定値】
感度協調はする必要がないため、全て5%で良いです。
【零相電流 整定値】
感度協調はする必要がないため、全て0.2Aで良いです。
【動作時間 整定値】
上位DGRと、下位DGRの動作時間の間には0.3秒を設ける必要があります。
GR付UGSの動作時間を0.5秒としたので、上位DGRは0.5秒、下位DGRは0.2秒となります。
A変電所は、GR付UGSの直下であるため、UGSと同じく0.5秒とします。
B変電所と、D変電所は、A変電所との保護協調のため、0.2秒とします。
1.2.4. C・E変電所の整定
- C変電所を0.5秒、E変電所を0.2秒とした場合
長所:E変電所で地絡事故が発生しても、E変電所のみの停電で済みます。
短所:C変電所で地絡事故が発生した場合、全体停電するため、影響が非常に大きいです。 - C変電所を0.2秒、E変電所を0.2秒とした場合
長所:C変電所で地絡事故が発生した場合、C変電所とE変電所の停電のみで済みます。
短所:E変電所で地絡事故が発生しても、C変電所とE変電所の両方が停電します。
1.と 2.のどちらを選ぶかは、考え方次第です。
C変電所で地絡事故が起きたときに全体停電が起こるリスクを取るか、E変電所の影響を受けてC変電所が停電してしまうリスクを取るかです。
例題では、C変電所は重要設備であるため、1.を選ぶこととします。
1.2.5. 整定結果まとめ
例題で検討した結果は、表のようになります。
2. 地絡事故発生時の事故箇所の調査
例題として示した図で、A~Eの各変電所の管轄内で地絡が発生した場合、どのような停電範囲となるかについてと、DGRの動作表示から、どこの変電所で起きた地絡事故であるかを判断するプロセスを検討します。
2.1. A変電所での地絡事故
A変電所で地絡事故が起きた場合の停電範囲と、DGR動作は図の通りです。
動作するDGRは、UGS(GR付)と、A変電所の2つが動作します。
そのため、全体停電となります。
- A変電所のDGRの監視範囲は、A~E変電所全てす。
動作したため、A変電所以下で起きたことがわかります。
A変ーB・C・D変間の送電線も監視範囲内です。 - B変電所のDGRの監視範囲は、B変電所のみです。
動作していないため、B変電所では地絡が起きていないことがわかります。
A変ーB変間の送電線は監視範囲外です。 - C変電所のDGRの監視範囲は、C変電所とE変電所です。
動作していないため、C変電所とE変電所では地絡が起きていないことがわかります。
A変ーC変間の送電線は、監視範囲外です。C変ーE変の送電線は監視範囲内です。 - D変電所のDGRの監視範囲は、D変電所のみです。
動作していないため、D変電所では地絡が起きていないことがわかります。
A変ーD変間の送電線は、監視範囲外です。
以上のことから、A変電所の中か、A変電所ーB・C・D変電所間の送電線で地絡が起きたことが推察されます。
2.2. B変電所での地絡事故
B変電所で地絡事故が起きた場合の停電範囲と、DGR動作は図の通りです。
動作するDGRは、B変電所のみが動作します。
- B変電所のDGRの監視範囲は、B変電所のみです。
動作したため、B変電所内で地絡が起きたことがわかります。
A変ーB変間の送電線は監視範囲外です。 - A・C・D・E変電所のDGRは動作していないため、Bを除く変電所や送電線間での地絡が起きていないことがわかります。
以上のことから、B変電所の中で地絡が起きたことが推察されます。
2.3. C変電所での地絡事故
C変電所で地絡事故が起きた場合の停電範囲と、DGR動作は図の通りです。
動作するDGRは、UGS(GR付)、A変電所と、C変電所の3つが動作します。
そのため、全体停電となります。
- A変電所のDGRの監視範囲は、A~E変電所全てす。
動作したため、A変電所以下で起きたことがわかります。
A変ーB・C・D変間の送電線も監視範囲内です。 - B変電所のDGRの監視範囲は、B変電所のみです。
動作していないため、B変電所では地絡が起きていないことがわかります。
A変ーB変間の送電線は監視範囲外です。 - C変電所のDGRの監視範囲は、C変電所とE変電所です。
C変のDGRが動作したため、C変電所では地絡が起きたことがわかります。
そして、保護協調できているため、E変電所内はC変のDGRの動作に影響を与えません。
A変ーC変間の送電線は、監視範囲外です。C変ーE変の送電線は監視範囲内です。 - D変電所のDGRの監視範囲は、D変電所のみです。
動作していないため、D変電所では地絡が起きていないことがわかります。
A変ーD変間の送電線は、監視範囲外です。 - E変電所のDGRの監視範囲は、E変電所のみです。
動作していないため、E変電所では地絡が起きていないことがわかります。
C変ーE変間の送電線は、監視範囲外です。
以上のことから、C変電所の中か、C変電所ーE変電所間の送電線で地絡が起きたことが推察されます。
2.4. D変電所での地絡事故
D変電所で地絡事故が起きた場合の停電範囲と、DGR動作は図の通りです。
動作するDGRは、D変電所のみが動作します。
- D変電所のDGRの監視範囲は、D変電所のみです。
動作したため、D変電所内で地絡が起きたことがわかります。
A変ーD変間の送電線は監視範囲外です。 - A・B・C・E変電所のDGRは動作していないため、Dを除く変電所や送電線間での地絡が起きていないことがわかります。
以上のことから、D変電所の中で地絡が起きたことが推察されます。
2.5. E変電所での地絡事故
E変電所で地絡事故が起きた場合の停電範囲と、DGR動作は図の通りです。
動作するDGRは、E変電所のみが動作します。
- E変電所のDGRの監視範囲は、E変電所のみです。
動作したため、E変電所内で地絡が起きたことがわかります。
C変ーE変間の送電線は監視範囲外です。 - A・B・C・D変電所のDGRは動作していないため、Eを除く変電所や送電線間での地絡が起きていないことがわかります。
以上のことから、E変電所の中で地絡が起きたことが推察されます。
3.参考書
保護協調に超特化した一冊。実務に近い解説が多いため、仕事で使う参考書としてお勧め。
実際にリレーを整定する場合にも、とても参考になる一冊。
電気設備の技術基準とその解釈について分かり易く解説されている一冊。
値段は高いが、幅広い解説がある。手元に置いておきたい一冊。
内線規程です。
電気設備に関する技術基準を定める省令や電気設備技術基準の解釈で不足する部分を具体的に補完する民間規格です。法的拘束力がある規格ではありませんが、設備設計、電気工事において、まず初めに参照するルールです。
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